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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)5393号 判決 1977年2月22日

本訴原告(反訴被告) 有限会社金森商会

本訴原告 金森友子

本訴被告(反訴原告) 株式会社吉田商会

主文

一  本訴原告らの請求及び反訴原告の請求は、いずれも棄却する。

二  訴訟費用は、本訴原告(反訴被告)有限会社金森商会と本訴被告(反訴原告)との間においては、本訴反訴を通じてこれを三分し、その二を本訴原告(反訴被告)有限会社金森商会の負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とし、本訴原告金森友子と本訴被告との間においては、全部本訴原告金森友子の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告有限会社金森商会に対し金一、〇〇〇万円、原告金森友子に対し金一、〇〇〇万円及び右各金員に対する昭和四六年七月一〇日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求はいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴について)

一  請求の趣旨

反訴被告は反訴原告に対し、金四七二万円及びこれに対する昭和四七年七月二日より支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 (当事者の地位)

原告有限会社金森商会(以下、原告会社という)は、ドライアイスの販売を業とするもの、原告金森友子(以下、原告友子という)は、原告会社の代表取締役であるもの、被告は、ドライアイスの卸売販売を業とするものである。

2 (本件代理店契約)

(一) 原告会社は被告との間で、昭和四〇年四月一日、塩釜市及びその周辺におけるドライアイスの販売について代理店契約(以下、これを本件代理店契約という)を締結したものであるが、右本件代理店契約は、東京以北において日東ドライを販売する卸売会社である被告が、原告会社を塩釜地区における代理店として、被告の仕入れにかかる日東ドライを、原告会社に対して継続的に売渡す旨の契約であつた。

(二) 昭和四〇年一一月ころ、原告会社において、その振出にかかる小切手が不渡りになるおそれを生じ、被告に対する本件代理店契約に基づく売買代金債務の支払も遅滞する事態が生じたため、そのころ、原告会社は、被告との間で、右売買代金債務の支払が完了するまで、被告から派遣された出向職員を受け入れ、その業務につき被告の管理を受けること及び右支払を完了したときは速かに右管理を解除することを合意した。

(三) 原告会社は、右のような被告管理のもとで経営の改善に努め、昭和四一年三月(同四〇年四月一日より同四一年三月三一日まで)の決算では、欠損金四一万五〇七七円を出したが、その後の業績は、次のとおり順調に上昇していた。

昭和四二年三月決算 実質利益金一〇六万九九三五円

同 四三年三月決算 実質利益金一三七万八五八六円

同 四四年三月決算 実質利益金一七九万六八六九円

同 四五年三月決算 実質利益金一八九万六三九〇円

そして、同四四年夏頃に、原告会社は、被告に対し未払となつていた売買代金債務を完済した。

3 (被告の不法行為)

(一) (本件代理店契約の解約)

原告会社が右のように昭和四三年夏ころには被告に対する未払代金債務を完済したにもかかわらず、被告は原告会社に対し、前記管理を解除しないばかりか、昭和四六年二月二六日に発しそのころ原告会社に到達した書面をもつて、同年四月一日以降は代理店契約を締結しない旨解約の申入れをなしたうえ、同年四月一日以降、原告会社に対するドライアイスの出荷を停止した。

(二) (被告の責任)

前項の解約の申入及び出荷停止の措置は、その前後の次のような一連の事実関係に照らして明らかなとおり、原告会社が塩釜地区において優秀な販売成績をあげていることに目をつけた被告が、原告会社を排除して、その販売利益を直接取得するべくなしたものに他ならない。かようにして、被告は、原告会社の営業権自体を消滅させたものであり、右は取引社会において許容される自由競争の範囲を逸脱した不当な目的を意図してなされた正当な事由のない解約行為であるから、原告会社及び原告友子に対する不法行為を構成するものと言わねばならない。

(1)  当時、塩釜地区では、原告会社が日東ドライアイスを、卸売会社である昭和ドライ株式会社が(代理店を置かず直売方式で)昭和ドライアイスを、それぞれ競争して販売していたが、原告会社は販路拡大に努めて売上をのばし、被告のために多大の貢献をした。現に、原告会社の売上高は、被告傘下の代理店の中にあつても相当の好成績をあげていたので、被告から報奨金を支給されるほどであつた。

(2)  原告会社は、前記2の(三)記載のとおり、昭和四四年夏頃に、被告に対し未払となつていた売買代金債務を完済したので、そのころ被告に対し、前記2の(二)記載の管理を解き、出向職員を引き揚げるよう申し入れたところ、被告は原告会社に対し、新たに被告から派遣する者を原告会社の役員とすること及び被告が原告会社に対し、五一パーセントの資本参加をすることを原告会社において認めない限り、管理解除に応じられない旨回答してきた。

(3)  原告会社の代表者である原告友子は、被告から提示された右のごとき条件は、実質的に原告会社に対する被告の支配を強めるものに他ならないことから、これを断わり、双方に納得のゆく解決をはかるべく、被告の代表者あるいは社員との間で数次の交渉を重ねたが、被告は、あくまでも右の条件を受入れることを要求したうえ、昭和四六年二月に至つて前記3の(一)記載のとおり解約の申入をし、同年四月一日以降、原告会社に対するドライアイスの出荷を停止した。

(4)  原告会社は、右出荷停止の措置をとられた後も、従来の顧客からの要請もあつたので、やむを得ず、これまでの競争相手であつた昭和ドライ株式会社からドライアイスの供給を受けて、営業を継続しようとしたが、被告は、原告会社の営業を妨害するため、昭和ドライ株式会社との間で、次のような地域協定を結び、同社が原告会社にドライアイスを出荷しないようにした。すなわち、当時、被告は、宮城県下において、塩釜地区の原告会社及び石巻地区の鈴木商会の二つの代理店を置き、それぞれ、昭和ドライ株式会社と販売競争をしていたところ、被告と昭和ドライ株式会社は、被告が原告に対する出荷を停止したことを機に、塩釜地区は、原告会社を排除して昭和ドライ株式会社の独占市場とし、石巻地区は、昭和ドライ株式会社が手を引いて被告の代理店である前記鈴木商会の独占市場とする旨の合意をしたものであつて、現に、塩釜地区では昭和ドライ株式会社のみが、石巻地区では鈴木商会のみが、それぞれ、その市場を独占して営業している。

(5)  この結果、原告会社は、日東ドライ及び昭和ドライのいずれの系統の卸売会社からも、ドライアイスの供給を拒まれることになり、結局、昭和四六年四月一五日、その営業を停止して事実上倒産した。

4 仮に右解約申入れが不法行為に当らないとしても、被告は原告会社に対する債権回収を完了したのにもかかわらず前記管理の合意に反し管理解除をしなかつた債務の不履行があり、原告会社に対し右債務不履行の責任がある。

5 (原告らの損害)

(一) 原告会社

逸失利益 金一五三五万四四五〇円の内金として、金一〇〇〇万円。

原告会社の昭和四一年四月一日以降四年間の実質利益は前記2の(三)記載のとおりであり、その年平均は、金一五三万五四四五円となるところ、原告会社は、本件取引の中止により、向後一〇年間の右得べかりし利益合計金一五三五万四四五〇円を喪失したので、このうち金一〇〇〇万円の支払を求める。

(二) 原告友子

(1)  逸失利益 金一八三〇万円の内金として、金八五〇万円。

原告会社代表取締役としての原告友子の昭和四四年四月一日より昭和四五年三月三一日までの年間収入は、金一八三万円であるところ、原告友子は、本件取引の中止により、向後一〇年間の右得べかりし利益合計金一八三〇万円を喪失したので、このうち金八五〇万円の支払を求める。

(2)  慰藉料 金三〇〇万円の内金として、金一五〇万円。

原告友子は、原告会社の代表取締役として、地域の住民及び取引先の間で得ていた信用及び名誉を、本件取引が中止され、原告会社が事実上倒産したことによつて、失つたものであり、その精神的苦痛に対する慰藉料は、金三〇〇万円が相当であるところ、このうち金一五〇万円の支払を求める。

6 (結論)

よつて、原告らは被告に対し、民法七〇九条に基づき、なお、原告会社については予備的に管理解除の債務不履行に基づきそれぞれ損害金一〇〇〇万円及び右各金員に対する被告が原告会社に対するドライアイスの出荷を停止した日のあとである昭和四六年七月一〇日より支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2(一) 同2の(一)の事実は認める。

(二) 同2の(二)のうち、被告が、原告会社の業務の管理を行なうのは、原告会社の被告に対する売買代金債務の支払が完了するまでの間である旨約束したことは否認し、その余は認める。右管理は被告の債権回収のみでなく原告会社の経営の改善すなわち被告の代理店として完全に独立でき不安のない経営の達成を目的としたものである。

(三) 同2の(三)の事実は不知。

3(一) 同3の(一)のうち、原告ら主張の被告の書面による解約の申入は否認し、その余は認める。次に述べるとおり、本件代理店契約は、遅くとも、原告会社に対する被告の管理が開始された時点までには、すでに解消されていたもので、被告の書面による右意思表示は、新たな代理店契約を締結しないことを明確にするためになしたものにすぎない。すなわち、

(1)  被告が原告会社の業務の管理を始めたことによつて、本件代理店契約において予定された契約当事者の対立構造は、被告と原告会社の合意によつて消滅したものとみられるから、本件代理店契約は、この時点において、暗黙のうちに合意解除されたものである。

(2)  仮に(1) の事実がないとしても、

(一) 原告会社は、昭和四〇年一一月ころ不渡小切手を出して事実上倒産し、被告がすでに引渡したドライアイスの売買代金一七六万円余の支払をしなかつた。

(二) 本件代理店契約には、原告会社に債務不履行があつた時には、被告は催告なしに解除しうる旨の条項があつた。

(三)イ 被告の職員から、そのころ被告を代理して原告会社に対し解除の意思表示をした。

ロ 仮に右解除の意思表示がないとしても、被告は、原告会社が事実上倒産したのち、その業務を管理することによつて、黙示の解除の意思表示をした。

(二)(1)  同3の(二)のうち、被告が原告会社に報奨金を支給したこと、被告からの役員派遣を管理解除の条件としたこと、被告がドライアイスの出荷を停止したこと、原告会社が、被告からの出荷を停止された後で、昭和ドライ株式会社と取引したこと、原告会社が営業を停止して事実上倒産したことは認めるが、その余は否認する。

(2)  被告の原告会社に対する管理が開始された後も本件代理店契約が存続しており、被告が昭和四六年二月二六日付書面をもつて解約の申入をしたものとしても、被告の右解約の申入及び出荷停止の措置は、原告らの主張するような正当性を欠いたものではなく、不法行為に該当しない。すなわち、

イ 昭和四〇年四月一日に締結された本件代理店契約には、期間を一年とし、期間満了前に双方より予告がない場合には自然延長される旨の条項があり、本件代理店契約は、右条項に基づいて逐次更新されてきたものであるところ、被告は原告会社に対し、昭和四六年二月二六日付の書面をもつて、同年四月一日以降は、本件代理店契約を更新しない旨意思表示して解約の申入をした。従つて、本件代理店契約は、同年三月三一日に期間満了により終了したもので、右解約申入は、前記契約条項にもとづいてその定める予告をしてなされたものであるから、何ら違法はない。

ロ 仮に、そうでないとしても、被告の解約申入は、次に述べるとおり、原告会社の信頼関係破壊によるやむを得ない事由に基づくものであつた。

(い) 原告会社は、昭和四〇年一一月ころ、ドライアイス販売業以外の事業に関連して振出した小切手が不渡りになり、事実上倒産したので、当時被告が原告会社に対して有していたドライアイスの売掛代金債権一七六万余円は、回収不能となつた。

(ろ) ところで、被告は原告友子の縁戚にあたり被告の代理店として石巻地区で営業していた鈴木商会の経営者である鈴木敏夫の要請もあつたので、原告会社を援助することになり、原告会社の他の債権者に対する債務整理の目的で、原告会社に対し金五〇万円を貸し渡した(弁済期は昭和四〇年一二月末日とされたが、期限までに返済されたのは金一五万三〇〇〇円のみであつた。)うえ、被告、前記鈴木敏夫及び原告友子の三者で「再建委員会」と称する会を作つて協議した結果、被告と原告会社との間で、被告が原告会社に対して派遣する出向職員に、原告会社の印鑑、預金通帳及び売掛金の保管及び管理を委ね、かつ新規の顧客の開拓にあたらせ、もつて原告会社の業務を被告が管理する旨の合意が成立した。

(は) 被告は、右合意に基づいて、昭和四〇年一一月から同四一年三月までは鈴木登を、同年四月から同四六年二月までは大塚徳五郎を、それぞれ出向職員として原告会社に派遣して右業務にあたらせ、その結果、原告会社の営業成績は次第に向上してきた。

(に) しかるに、昭和四四年六月頃、原告友子は、被告からの派遣職員大塚徳五郎が保管していた原告会社の印鑑及び預金通帳を無断で持ち出し、預金を引き出して費消するという前記管理の約束に反する態度を示したので、被告としても、管理を解くならば、取引の安全を確保するに足る条件を提示するよう原告友子に要請し、この頃から双方の話合いが始まつた。

(ほ) 当時、原告会社には特別な資産もなく、保証金を出すだけの資金的ゆとりもなかつたので、被告は、人的関係でこれを補う他はないと判断し、数次の交渉の中で、前記鈴木敏夫を原告会社の非常勤の取締役とすること及び被告から派遣する者を原告会社の非常勤の監査役とすることを管理解除の条件として提案したが、原告友子はこれに応じようとせず、かえつて身近の者や取引相手などに、被告が五一パーセントの資本参加を要求し、原告会社を乗取る気である、などと虚偽の事実を流布した。

(へ) 原告友子の右のような態度に驚いた被告は、被告代表者自ら仙台に赴き、原告友子に対して、原告会社を支配する意思はないこと、原告会社に物的担保がないところから、前記の条件は、管理解除後の取引の安全を確保するために必要であることを説明し、重ねて前記条件に応ずるよう要請したが、原告友子はこれを拒絶した。

(と) 以上のとおり、被告は原告会社を再建するために誠実に努力してきたにも拘らず、原告友子は、これに答えるどころか、かえつて被告との間の信頼関係を破壊する挙に出たもので、かくして、被告はやむを得ず前記の解約申入をなしたうえ出荷を停止したものであるから、右は、取引社会において企業利益を防衛するために当然許容さるべきもので、原告らの主張する不法行為責任はない。

4 同4は否認する。前記のとおり原告会社と被告との本件管理の合意は被告の債権回収のみに目的を限定してなされたものとはいえないから、被告に原告主張の債務不履行はない。

5 請求原因5の事実は不知。

(反訴について)

一  請求原因

1 反訴原告(本訴被告、以下被告という)は、ドライアイスの卸売販売を業とするものであるところ、昭和四〇年四月一日、反訴被告(本訴原告、以下原告会社という)との間で、ドライアイスの継続的売買を内容とする代理店契約(以下本件代理店契約という)を締結した。

2 原告会社は昭和四〇年一一月ころ、不渡小切手を出して事実上倒産したので、被告は原告会社を再建するべく、そのころ原告会社との間で、被告から原告会社に対し出向職員を派遣し、その業務を被告において管理することを合意した際、右出向職員の給与は原告会社において支払うものとし、一時的に被告が右合意にもとづく費用負担としてこれを立替払いすることを約束した。

3 被告が立替払いした給与は左のとおりである。

(一) 出向職員鈴木登の給与

昭和四〇年一一月一日から同四一年三月末日までの給料金一三万七二三六円。

(二) 出向職員大塚徳五郎の給与

(1)  昭和四一年三月一日から同年一二月末日までの給料金三八万一〇二四円及び賞与金七万七〇〇〇円。

(2)  同四二年一月一日から同年一二月末日までの給料金五〇万五七六九円及び賞与金一五万八〇〇〇円。

(3)  同四三年一月一日から同年一二月末日までの給料金六五万一〇三五円及び賞与金二一万三〇〇〇円。

(4)  同四四年一月一日から同年一二月末日までの給料金六七万三六八〇円及び賞与金三一万八〇〇〇円。

(5)  同四五年一月一日から同年一二月末日までの給料金八〇万三二〇八円及び賞与金三八万四〇〇〇円。

(6)  同四六年一月一日から同年二月末日までの給与金一二万四五四五円。

以上(一)(二)合計金四四二万六四九七円。

4 被告は、昭和四六年二月一日から同月末日までの間に、原告会社に対し代金合計金二九万三七八〇円相当のドライアイスを販売した。

5 よつて、被告は原告会社に対し、右委任費用の償還金四四二万六四九七円及び売買代金二九万三七八〇円の合計金四七二万二七七円のうち、(右償還金中二七七円を除く)金四七二万円及びこれに対する弁済期後である昭和四七年七月二日より支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、被告が原告会社の業務につき被告主張の管理をする旨の合意が、被告、原告会社間に成立し被告主張の職員が原告会社に派遣されたことは認めるがその余は否認する。原告会社は、被告主張のころ、不渡小切手を出しかねない状態になつたことはあるが、不渡になつたわけではなく、事実上倒産したこともない。また出向職員の給与について被告主張の約束はなされておらず、むしろ右出向職員は被告のために仕事をしたのであるから、被告がその給与を支払うべきことは、当然の理である。

3 同3の事実は不知。

4 同4の事実は認める。

三  抗弁(請求原因4に対して)

1 被告は原告会社に対し、原告会社が昭和四五年三月一日より同四六年二月末日までの間に販売したドライアイスにつき、一キロあたり一円とする合計金三〇万四八八円の報奨金を支払うことを約束した。

2 原告会社は、昭和四七年一〇月一八日の本件口頭弁論期日において、右債権をもつて、被告主張の売買代金債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて認める。

第三証拠<省略>

理由

第一本訴請求について

一  本件代理店契約について

1  本件代理店契約の成立

原告会社はドライアイスの販売を業とするもの、原告友子は原告会社の代表取締役であるもの、被告はドライアイスの卸売販売を業とするものであり、原告会社が被告との間で、昭和四〇年四月一日、本件代理店契約を締結したこと、被告は東京以北において(日東化学の製品である)日東ドライを販売する卸売会社であり、本件代理店契約は、被告が、原告会社を塩釜地区における代理店として、被告の仕入れにかかる日東ドライを原告会社に対して継続的に売渡す旨の契約であつたことは当事者間に争いがない。(なお、契約書には、本件代理店契約の期間を一年とし、期間満了前に双方より予告がない場合には、当然に延長される旨の記載がある。)

2  被告による原告会社の業務管理

(一) 昭和四〇年一一月ころ、原告会社において、その振出にかかる小切手が不渡りのおそれを生じ被告に対する本件代理店契約に基づく売買代金債務の支払が遅滞する事態が生じたため、そのころ原告会社は被告との間で、被告から派遣される出向職員を受け入れて、原告会社の業務につき被告の管理を受けることを合意したことは当事者間に争いがない。

そこで、右合意がなされた目的・内容について検討するに金森友子作成部分につき成立に争いのない乙第三号証、証人大塚徳五郎、同小柳卓司(第二回)の各証言並びに原告金森友子(後記信用しない部分を除く)、被告代表者の各本人尋問の結果を総合すると、次のように認められる。

昭和四〇年一一月ころ、被告は、原告会社からドライアイスの需要の少ない冬期に食用油の販売をしたいので、その仕入れ資金を融通して欲しいとの依頼に応じ二、三日後に返済する約束で、金五〇万円を貸渡したところ、これが期日までに返済されず、また、ドライアイスの売買代金の支払も遅滞したので、原告会社の経理状況に不審を抱いて調査したところ、原告会社の銀行預金残高はほとんどないにも拘らず、原告会社振出の小切手が相当数にのぼり、先に貸渡した金五〇万円は、小切手の不渡処分を免れるため銀行に入金されていたこと及びドライアイス売買代金支払のため、原告友子が被告に対し裏書譲渡した約束手形(乙第三号証)が不渡りになつたことが判明した。原告友子は、右小切手振出の原因については、原告友子の兄である金森嘉太郎が勝手に濫発したとか、油仕入代金名下に業者に小切手を騙取されたなどとあいまいな説明をし、また右約束手形を取得した経緯については何ら説明をしなかつたので、原告会社の営業状態に強い不安を抱いた被告が代理店契約の解約も検討したが、原告友子の縁戚に当り石巻市で被告の代理店を経営している鈴木敏夫の強い要請もあつて結局原告会社の経営を建て直すことにし、原告友子を交えて協議した結果被告が原告会社の業務を管理することになり、原告会社はこれを承諾し、前記合意がなされた。右管理は、被告の派遣した出向社員が原告会社の売上金、印鑑及び預金通帳を保管したうえ原告会社の売上金を一定期間毎に被告のもとに持参し、被告はこの中から、あらかじめ被告において決定した原告会社の職員の給与を控除したうえ、残余を、原告会社に対する債権の支払いに逐次充当し、なお原告友子の給与の半額は銀行に預金する方法で行ない、右管理は、原告会社の経営が改善され取引継続について不安がなくなり、被告が原告会会社に対して有する債権(売買代金債権と貸金債権)の回収が完了するまで続けられるが、一応、右債権の支払いが完了すれば、出向職員を引揚げて管理を解除することを約束したものである(現に被告は、昭和四〇年一一月から同四一年三月までは被告の社員鈴木登を、同年三月から同四六年二月までは被告の社員大塚徳五郎を、原告会社に派遣して右のような方式で業務にあたらせた。)ことを認めることができる。

右認定に牴触する原告金森友子本人尋問の結果の一部は直ちに採用できず他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) なお、右管理が開始された後の原告会社の経営状況については、成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、第一〇号証、原告金森友子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第四号証の五、六、証人小柳卓司の証言(第二回)及びこれにより真正に成立したものと認める乙第二号証の一ないし三、証人菅原敏雄の証言、被告代表者本人尋問の結果を総合すると、次のように認められる。すなわち、

昭和四〇年一一月以降、原告会社の売上は順調にのび、これにつれて被告との取引量も増大した(ちなみに、昭和四一年三月決算時の年間売上額は金九一九万八〇八六円であり、昭和四六年三月決算時の年間売上額は金一六六〇万九五五五円であつた。)。そして、昭和四三年春ころ、被告から、その割当販売量を達成したとして報奨金の支給を受け、昭和四四年ころには、塩釜地区のドライアイス市場の七、八割を占めるに至り、昭和四〇年一二月当時に被告に対し未払いとなつていた債務(売買代金債務金一七六万七五八〇円及び前記貸金債務の未返済分金三四万六〇〇〇円、以上合計金二一一万三五八〇円)も、昭和四四年夏ころには完済するに至り、原告金森友子は速に管理契約を解除して通常の代理店取引関係に戻ることを希望していた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  被告の不法行為について

1  被告の解約申入

(一) 右のような状態にあつたところ被告が原告会社に対し、昭和四六年二月二六日に発し、そのころ原告会社に到達した書面をもつて、同年四月一日以降は代理店契約を締結しない旨通知し、同年四月一日に、原告会社に対するドライアイスの出荷を停止したことは当事者間に争いがない。

(二) 被告は、本件代理店契約は、(前記のとおり取引は継続されていたが)遅くとも原告会社に対する被告の管理が開始された昭和四〇年一一月ころまでには、合意解除あるいは被告のなした明示あるいは黙示の解除の意思表示により解消されたものと主張し、成立に争いのない甲第二号証の一によると、前記昭和四六年二月二六日に被告が発した通知書(甲第二号証の一)は、同四〇年一一月に本件代理店契約が解除されたことを前提として書かれた書面であると認められるが、そのころ被告が原告会社に代理店契約解除の合意又はその旨の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はなく、また、いずれも成立に争いのない甲第八号証及び甲第一一号証によると、被告は、右管理開始後も、原告会社を被告傘下の他の代理店と同様に処遇していることが認められるうえ、前記通知がなされるまでの間、被告と原告会社間の取引が、従来どおり継続して行なわれていたことはすでにみたとおりであるから、右書面の記載のみから直ちに被告の主張を認めることは出来ず、結局本件代理店契約は、一年経過後は期間の定めのないものとして右管理後も存続していたところ、被告は前記通知をもつて、期間の定めのないものとなつていた本件代理店契約を、同四六年四月一日以降将来に向かつて解約する旨申入れたものと認められる。

2  不法行為の成否

そこで、右解約申入が、原告会社の営業権自体を侵害した不法行為となるかについて検討する。

(一) おもうに、本件のごとく、商品の供給を受ける代理店が、商品の供給をなす卸売業者の指定する商品のみを、その指定する地域のみにおいて販売すべきことが義務づけられた期間の定めのない継続的取引契約においては、代理店が、その商品の販路を拡大して卸売業者のためにも相当の貢献をなし、卸売業者は、いわば代理店の経済活動によつて利益を取得してきたものと言うべきであるから、公平の原則上、契約の存続を著しく困難ならしめる特段の事情のない限り、一方的に解約申入をなして契約の拘束を免れることはできないものと解するのが相当である。従つて、かかる特段の事情がないにも拘らず、卸売業者が、自己の利益のみのため解約申入及び出荷停止の措置をとつて、代理店を事実上倒産させた場合には、右解約申入は、代理店の営業権自体を侵害し、取引社会を支配すべき信義誠実の原則及び公序良俗に反した違法性を帯びるものと判断することができる。

(二) そこで、本件解約申入につき、かかる特段の事情が認められるか否かについて検討する。

(1)  前掲甲第二号証の一、いずれも成立に争いのない甲第一号証第二号証の二、乙第一号証の一、二、第四号証、証人杉船丙吾の証言及びこれにより原本の存在及び成立を認め得る甲第五号証、原告金森友子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第一三号証、証人菅原敏雄、同鹿野正三、同千坂政徳、同阿部久寿、同津久浦精、同鈴木敏夫、同今吉満徳、同大塚徳五郎、同小柳卓司(第二回)、同遠藤栄三郎及び同小藤恭正の各証言並びに被告代表者本人尋問の結果を総合すると、次のような事実が認められる。

イ 本件管理が開始されたころから、被告は原告会社に対し、代理店取引から生ずる被告の原告会社に対する売掛金債権の回収を確保するため物的担保の提供を要求していたが、原告友子は、これに応じて昭和四一年二月二日に、自己が共有持分権を有していた仙台市内の農地につき、同年四月末日までに宅地転用手続をとつて、被告のために抵当権を設定することを約束した。しかるに、右農地は原告友子の都合で他に売却されたため、この約束は履行されないままに終わつた。

ロ 原告会社の営業状態が一応安定し、被告に対する債務の支払の見通しがついてきた昭和四三年ころから、原告友子と被告の職員との間で、本件管理を解除することについての交渉が始まつたところ、被告は、原告友子の縁戚にあたり、被告の代理店として石巻地区でドライアイスを販売していた鈴木商会の経営者である鈴木敏夫を原告会社の非常勤取締役とし、かつ被告から派遣する者を原告会社の非常勤監査役とすることを、管理解除の条件とする意向を示した(このことは被告の認めるところである)。被告の社員は原告友子に対して、右のような条件を提示した理由として、原告会社及び原告友子には、商品売掛代金の回収を確保するに足る物的担保がないこと及び昭和四〇年一一月ころの小切手濫発あるいは前記抵当権設定の約束の不履行等の経緯に照らすと、原告会社の経営面に不安が残ること等を挙げたが、原告友子は、保証金の提供以外の条件には応じられないとしたので、交渉は難航し、前記のとおり、昭和四四年夏ころには、原告会社は被告に対する債務を完済し、本件管理の主たる目的は一応達成されたが、本件管理はなお解除されず、昭和四五年三月ころまで数次の交渉の結果、被告提案にかかる管理解除の条件は、前記の役員二名の派遣を骨子とする案と保証金として金四〇〇万円から金六〇〇万円程度の金員を提供することを骨子とする案(被告はその傘下の代理店に対し、ドライアイスの売上の最盛期である夏期の売上額の二か月分に相当する額を保証金という名目で担保にとつていたが、原告会社の当時における最盛期二か月分の売上額は、ほぼ六〇〇万円位であった。)の二つとなつていたが、被告としては、原告会社には保証金を用意する資金的余裕はないとみていたので、役員派遣の案を強く希望した。そして、その際、被告の担当者らは、被告が扱つているドライアイスのメーカーである日東化学が、被告に対して五一パーセントの資本参加をしても、被告は、独自の経営を行なつていること等被告が原告会社に役員を派遣しても、原告会社の営業権が奪われることにはならないし、また、被告にそのような意思もない旨の説明をしていた。

ハ 右のような交渉が行なわれていた間、被告の仙台営業所長今吉満徳(以下、今吉所長という)及び被告からの出向職員大塚徳五郎(以下、大塚という)が、原告会社の職員に対し、原告会社が被告の直接経営の下に入ることを示唆したり、また今吉所長が原告友子に対し、将来は原告会社を株式会社に組織変更することを勧めたりしたことがあり、他方、原告友子も、昭和四四年夏ころ、大塚が保管していた原告会社の印鑑と預金通帳を、大塚に無断で使用したうえ、預金をおろして入院費用に当てたことがあつたので、被告と原告らは、相互に不信感を抱き合うようになつた。

ニ 昭和四五年四月二二日頃、被告本社の営業部長長井某、同じく営業部次長小柳卓司(以下、小柳次長という)及び今吉所長が原告会社を訪れ、原告友子に対し、原告会社において、前記の保証金あるいはこれに相当する担保を提供できないのであれば、役員二名を派遣する前記条件を受け入れるよう重ねて強く申入れたが、原告友子はこれを拒絶したので、右長井らは、原告会社との取引を中止するのが得策であるとの考えを持ち小柳次長が(被告代表者の指示によらず独自に)原告友子に対し、同人が翻意しないのであれば、被告は、塩釜地区で直接ドライアイスを販売する意向のある旨示唆した。

ホ このような申入れがあつたため、原告友子は、被告が原告会社に対して、五一パーセントの資本参加及び役員派遣の手段により、原告会社を乗つ取ろうとしているものと考え、これをおそれ、周囲にもこれを洩していた。

ヘ かかる状況のもとで、被告は原告会社に対し、同年五月末に、出向職員の給料を支払うよう請求し、同年六月一二日には、被告代表者和田信自ら仙台市に赴き、市内のホテルにおいて、前記鈴木敏夫及び今吉所長を同席させたうえ原告友子と会見し、原告友子に対し、被告には原告会社を支配する意思はないことを説明し、役員二名を派遣する条件に応じるよう要請した。

これに対し、原告友子は、同四五年七月二六日付書面(乙第一号証の一)をもつて、保証金等を提供することを骨子とする案を希望するが、現在のところ、被告の希望に添う現金がないので、仙台市内の土地につき債権限度額金一〇〇万円として担保を設定し、出向職員の給与は、被告において負担することで了解してほしい旨申入れ、被告の希望する役員二名の派遣の条件には応じられない旨最終的に回答するに至つた。

ト 被告は、原告友子の右のような回答に接した後は格別の交渉を行なうことなく、しばらくの間、取引を継続した後昭和四六年二月に、原告会社との取引を中止する方針を決定して、出向職員の前記大塚を引揚げ、前記のとおり、同年二月二六日付書面をもつて、原告会社に対し、本件代理店契約の解約を申入れ、同年四月一日に出荷を停止した。

以上の事実が認められ他に右認定を覆えすに足る証拠はない。原告金森友子本人尋問の結果並びに証人菅原敏雄、同鹿野正三、同千坂政徳及び同遠藤栄三郎の各証言中には被告が原告友子に対し原告会社の資本五一パーセント参加を正式に申入れたとの原告の主張に沿う部分もあるが、証人鈴木敏夫、同今吉満徳及び同小柳卓司の各証言並びに被告代表者本人尋問の結果に照らしてにわかに措信できず他に、原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。

(2)  以上認定の事実から考えると、本件解約申入は、原告友子が、被告のなした取締役及び監査役の役員二名の派遣の要請を最終的に拒絶したことに端を発しているものであるが、被告の右要請は、本件管理解除の条件として提示されたものであるところ、本件管理は、原告会社の経営が改善されて被告に対する債務を原告会社が完済したときは解除される約束のもとで開始され、すでに経営内容も好転し被告の債権回収の目的は一応達せられたのであるから、右のような管理の目的からすれば、将来の経営不安の点はともかく、右申入は、右の条件の限度で管理の解除を制限しようとするものであるから前記管理の合意の趣旨に牴触するかに見られないではない。しかしながら、なお前記管理がなされた経緯及び他の代理店の場合等の諸事情を考慮して検討すると、被告はその傘下の代理店に対し、当該代理店の売上額の二か月分に相当する金員を保証金として徴しており、当時、原告会社にそれだけの金員を用意する資金的余裕はなく、かつ物的担保もなかつたことは明らかであるから、被告が、本件管理を解除して、原告会社との間で通常の代理店取引を行なうにあたり、右保証金に代えて、取引上の債権回収を確保するに足りる何らかの保証を求めることは、経済的見地からみて理由がないものではなく、経営策としても一般に行われているところであつて、不当にわたらない限り是認さるべきものと言わねばならない。

しかして、被告の求めた条件の内容についてみると、被告が派遣を希望した取締役及び監査役は、いずれも非常勤の役員であり、このうち監査役には被告の職員をあてるとしているものの、取締役には、原告友子の縁戚にあたる前記鈴木敏夫をあてるというものであり、原告友子は、原告会社が本件管理下にあつた同四四年夏ころ、本件管理の約束に反して、被告からの出向社員である大塚が保管していた原告会社の印鑑と預金通帳を、同人に無断で使用して預金をおろして入院費等に当てていること、前記のとおり原告会社は資産に乏しく、管理解除後の経営の不安がなくはないこと等を併せ考えると、被告が、右にみた程度の役員を派遣することによつて、原告会社の経理面等を、いくらかでも把握しておきたいと考えたことには、相当の理由があるものと言わねばならず、他方、この程度の被告の要請を受け入れることによつて、直ちに原告会社の経営の独立性が奪われ、原告友子の経営の権限が失われるものとは考えられないところである。もつとも、被告の今吉所長及び大塚が、あたかも、被告に原告会社を支配する意図があるかのような発言をしたことのあるのは、すでにみたとおりであり、あるいは、被告には、役員二名の派遣を手がかりにして、さらに、原告会社に対する要求を拡大していくとともに、もし原告会社がこれに応じなければ、本件代理店契約を解除して、塩釜地区の市場を自ら直接獲得しようとする意図があつたのではないかとの危惧を原告友子が抱いたことも全く根拠のないこととはいえない。しかし、被告の担当職員らは、原告友子が、本件管理解除の条件に関する交渉が始まつた当初から、役員派遣の条件につき、約二年間の長期にわたつて原告友子の説得交渉にあたつており、最終的には、被告の代表者が、原告友子と会見し、被告には原告会社に資本参加を求めるなど支配する意図はないことを繰り返し述べており、現に、被告が、原告友子からの最終的な拒絶に接した後も格別塩釜地区の市場を獲得するための準備と見るべき行為に出た形跡はないのであつて、これを全体として見ると、被告は、原告友子と協議を重ね、経済的にみて合理的な事態の解決に努めていたものであり、原告会社にその主張のような資本参加を求めて支配する意図を有していたとは認められず、前記の今吉所長及び大塚をして、被告代表者の真意とは反する一連の言動に至つたことについて、被告にも責むべき点がないとはいえないとしても、本来提供すべき保証金を準備できない立場にある原告友子としては、被告の役員派遣の要請を拒絶するに足る十分な合理的根拠があつたとはいいきれない。しかるところ、原告友子は、これを拒絶したうえ、被告が原告会社を乗取ろうとしていると、周囲に流布するなどしたのであるから、これにより、本件代理店契約の存続は著しく困難になつたものと認められ、かかる事情に基づいてなされた被告の本件解約申入は、已むを得なかつたものとしてこれを是認することができる。

(三) なお、原告らは、そもそも被告は、昭和ドライ株式会社との間で、塩釜地区を昭和ドライ株式会社の独占市場とし、石巻地区を被告の代理店である前記鈴木商会の独占市場とする旨の地域協定を結んだことが原告会社の排斥を意図したものであり、本件解約申入は、なおその点において不法である旨主張するようであるが、被告代表者本人尋問の結果によれば、被告が原告会社との取引を中止したのち、塩釜地区は昭和ドライ株式会社の独占市場となり、他方石巻地区は、同社が営業をやめたため、一時的に前記鈴木商会の独占市場となつた(なお、石巻地区では、その後、同業他社である昭和炭酸株式会社が進出した。)ことは認められるものの、被告が塩釜地区における顧客を獲得するための準備と見るべき行為に出た形跡のないことはすでにみたとおりであつて当初から意図していたものとは認め難くまた、証人今吉満徳の証言によれば昭和ドライ株式会社が石巻地区で営業をやめたのは、原告会社の倒産を機に、塩釜地区に全ての資本と人員を役下したほうが有利であるとの経済的判断によるものと推測し得ないでもないので、結局、右事実のみをもつて直ちに原告ら主張の事実を推認することは出来ず、右認定に反する証人菅原敏雄、同阿部久寿、同津久浦精、同杉船丙吾、同小藤恭正の各証言及び原告金森友子本人の各供述のうち、原告らの主張に沿う部分は、直ちに採用できない。

(四) してみれば、被告の代理店契約の解約が原告会社の営業権を侵害したものであることを前提とした原告らの損害賠償の請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三  債務不履行について

なお、原告会社は前記管理解除の合意につき債務不履行を主張するが、前記管理の合意が原告主張のように単に被告の債権回収のみを目的とし、これが完了すれば無条件に解除すべきものであつたとは直ちに認め難く、前記2で認定した管理の合意の趣旨・目的・経緯から考え、管理解除が被告の債権回収完了後も無条件になされなかつたことが右合意の約束に違反し債務不履行に当るとは認め難い。(なお、原告会社と被告との代理店契約が前記のとおり適法に解約されたと認められる以上原告主張の損害が右管理解除の不履行に基くものとはいえない。)

第二反訴請求について

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  昭和四〇年一一月ころ、被告と原告会社との間で、被告から原告会社に対し出向職員を派遣し、その業務を被告において管理する旨の合意が成立したことは当事者間に争いがないが、その際、右出向職員の給与は原告会社において支払う旨の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はなく、被告会社代表者本人尋問の結果によつても、右について明確な合意はなされず、後日話し合いによつて決める予定であつたことがうかがわれる。

そうすると、出向職員の給与を立替え支払たとして、その金額を委任費用の償還として原告会社に対して請求する被告の主張は理由がない。

三1  被告が、昭和四六年二月一日から同月末日までの間に、被告に対し代金合計金二九万三七八〇円相当のドライアイスを販売したことは当事者間に争いがない。

2  そこで、抗弁について判断するに、被告が原告会社に対し、原告会社が昭和四五年三月一日より同四六年二月末日までの間に販売したドライアイスにつき、一キロあたり一円とする合計金三〇万〇四八八円の報奨金を支払うことを約束したことは、当事者間に争いがなく、原告会社が、その主張の相殺の意思表示をしたことは、訴訟上明らかである。

四  そうすると、被告の反訴請求もまた理由がないものと言わねばならない。

第三結論

以上の次第で、原告らの本訴請求及び被告の反訴請求は、いずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺卓哉 白石悦穂 倉吉敬)

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